九州・火の玉ツーリング


食べ物につられて行った南国九州。待っていたのは、
灼熱の太陽と人々のほのかな温かさだった。
 ◆走行データ◆ 本土最南端佐多岬
日程: 1994年7月10日〜22日
走行: 4,300km
バイク: SUZUKI Bandit400V'92
費用: 13万
燃費: 20km/l
◆北の大地よりも南国へ
 7月中旬、梅雨が明けて猛暑の日差しが都心に襲いかかった頃、会社から 2週間の夏休みをもらった。
 今年こそ、初めて北海道を走ろうと思っていたが、佐賀出身の会社のバイ ク仲間曰く「九州に行けばうめぇラーメンが食えるし、大宰府の梅がえ餅が うめぇぞ!」と食いしん坊で単純な私はその一言で九州行きを決めた。

 九州ツーリングの話で2人で盛り上がっていると、更に2人が参加する事 になり、結局バイク仲間4人で九州まで行くことになった。
 佐賀と宮崎に実家を持つ2人はそれぞれ帰省をする為に、私は趣味である 国道標識の写真を撮りながら九州一周の旅へ。もう1人は鹿児島の南に浮か ぶ神秘の島「屋久島」に憧れ、4人はそれぞれの思いを抱いて九州行きを待 ち望んでいた。

◆一路九州へ
 7月10日朝、夜空が青み始めた早朝に家を出発。東京I.C で九州行きの チケットを手に東名高速を走り出す。
 集合場所の海老名S.A では3人が揃ったが、屋久島に行く1人が姿を見せ ない。電話をすると「行けなくなった!」とまさかの一言。何と彼のバイク が盗まれたそうだ!

壇ノ浦P.Aにて  気を取り直して3人で海老名S.A を出発。今日は壇ノ浦を目指して西日本 横断の旅が始まるのである。日が昇るにつれてもの凄い暑さになり、S.A で ヘルメットを脱ぐ度に汗で髪がぬれているのが気持ち悪い。
 今年は、ニュースで戦後最大の猛暑というセリフを何回も聞く程の暑さだ。

 今日は高速道路横断(東名・名神・中国)ということもありハイペースだ った。誰かが飛ばし始めると他の2台が追いかけ、3台で淡々と走っている と思えば、誰かが飛ばし始めるという繰り返しが楽しい。
 暑すぎて、変に気分がハイになってしまったかもしれない。

 灼熱の太陽の下で関西を通過。そして夕日を正面に浴びて走る中国道では、 虫の大群が黒い豪雨となり、3人のライダーを襲ってきた。
 しかし日が暮れた夜の中国道では、まだ虫こそいるが、周りの車がほとん ど見られずに真っ暗な中国道を3つのヘッドライトの光が貸切状態で快適に 走った。

 そして夜中の12時過ぎ、やっと着いた本州最西端の壇ノ浦P.A 。すぐ横 には関門海峡があり、目と鼻の先には九州列島が待ち構えている。
 そんな綺麗な夜景をバックに強い潮風の吹く中ベンチで眠った。

 7月11日、朝6時頃ベンチで目覚めると既に2人共起きている。
 2人は、どこでも熟睡できてイビキをする私に感心しているようだ(いや 呆れているかも・・・)。
 P.A を出発して関門海峡を渡ると、「福岡県」の標識。ついに九州列島に 上陸だ!
 上陸して間もなく、高速を降りて宮崎が実家の友人とお別れする。

 2人で大宰府に行き、お参りをした後は待望の「梅がえ餅」の登場。今日 もムチャクチャ暑いが、梅がえ餅ぷくぷくの焼きたてで本当にうまい。つい でにかき氷も食べる。更に佐賀市に着いてから九州本場のとんこつラーメン も頂いた。スープも軽く飲み干して満足。

 夜は一緒に走ってきた佐賀の友人宅でお世話になる。友人の父はビールを 飲みながら長〜い語りに入った。母は少しおとなしそうな感じだが、私に「 これで東京の親に電話をかけなさい」と言ってテレフォンカードをくれた。
 何だか母が自分の息子に言いたいことを私に言っているようにも聞こえた( たまには電話をしなさいと・・・)。

◆凄い!おばちゃんパワー
佐賀の友人宅にて  7月12日、お世話になった佐賀の友人宅を後に、佐賀市内を走行中ト ラブル発生!
 シフトペダルの棒が「バキッ!」と折れてしまい、シフトチェンジが出来 ないまま2速のみの走行で何とかバイク屋まで走った。
 無事にバイクの修理が終わり、佐賀の友人と別れを告げて1人長崎に向か い走った。

 長崎市の外れにあるキャンプ場でテントを張った後、数キロ離れた茂木町 という所で庶民的な銭湯に浸かる。
 そして湯からあがり番頭さんに借りたタオルを返すと「何処から来たの?」 と聞かれて、それから番頭さんと銭湯の外に出て話を始めた。
 すると徐々に近所中のおばちゃん達が集まって雑談会が始まった。

 商店のおばちゃんにはアイスをもらい、あるおばちゃんには「外で寝たら いかん!家に泊まりなさい!」と強引に拉致されそうになる。
 中には旦那の悪口を言い出すおばちゃんもいて、もてもての私もさすがに おばちゃんパワーに圧倒されKOされた気分だ!
 でも一人旅に出ると人と話をする事が楽しい。この茂木町の人はいい人達 ばかりだった。

 7月13日、長崎のキャンプ場を出発して、近くの茂木港から天草行きの フェリーに乗る。
 今日も相変わらず暑いが、船に乗って甲板で潮風を浴びている時は気持ち がいい。

 1時間程で天草下島の富岡港に到着。そこから天草の断崖上の海岸線を 走るが、これがまた気持ちがいい。
 この辺りの海岸線は九州でも屈指のロケーションではないだろうか。日没 時ならもっと美しそうだ。

 途中で温泉に入り旅の汗を流して、地元のおじいちゃん、おばあちゃん と話をするが言葉がわからない。
 「・・・ばってん???」頑張って何とか話を聞いたが、半分位しか分か らなかった。
 今日も40度近い灼熱の太陽の下、暑い昼がやってきた。そして誘惑す るかのような氷の旗に迷わず飛び込む。

 天草下島の牛深港からフェリーで鹿児島県の蔵ノ元港へ。鹿児島県の霧島 を目指して快走していると、珍しくツーリングライダーがいた。

鹿児島の西郷さんの銅像撮影広場にて  この猛暑でツーリングライダーがいるというだけで嬉しくなり、九州を 一周するという地元のライダーとしばらく話をした。
 2人で「あちぃなぁ」と言いながら缶ジュースを飲む。1缶では物足り なくて2缶目もゴクゴク・・・。

 夕方霧島のキャンプ場にテントを張ると目の前が競馬場でビックリ!そ して韓国岳が綺麗に見えて気持ちのいいキャンプだった。

 7月14日、朝霧島スカイラインを昇り、えびの高原に到着。
 辺りを見回すと何とも美しい景色!広々とした草原に道がくねくねと自然 に溶け込んで、遠くの山々が雲に覆われている。
 裸足になって走り回りたくなるような小さなアルプスって感じだ!

 鹿児島市まで走り、西郷さんをおがんでから昼食は待望の黒豚とんかつ。 その後、薩摩半島を走って指宿へ。

 指宿温泉の砂風呂に挑戦しようと、変な浴衣を着て砂浜に行くと、「待 ってました」とばかりにおばちゃん達に5・6人に囲まれて砂埋め攻撃。
 あっという間に首以外の全身を埋められてた。

 砂浜の周りを見渡すと、自分と同じように首だけが砂浜にゴロゴロと置い てある。その横で当たり前のように、雑談をしているおばちゃん達。何とも 奇妙な海岸だ!
 そして5分も経たないうちに熱くなり「おばちゃんヘルプ!」のコールで 無事に脱出。

 空が真っ暗になり、近くのキャンプ場へ。このキャンプ場は誰もいないの で、適当な場所にテントを張って寝た。

◆忘れられないカップ麺
日本最南端「西大山」駅にて  7月15日、朝起きてビックリ!なんとテントを張ったこの芝生はゴルフ 場のコースの中だった。
 数メートル横にはグリーンとポールが立っている。

 何事も無かったかのように、素早くキャンプ場を出て長崎鼻という岬へ。
 すぐ側に「ぶじ蛙」というナイスな石像があったので拝む(無事帰れます ように)。
 次に日本最南端の駅「西大山」へ。肥えた匂いが充満しているが、これ も田舎情緒あふれるこの小さな駅にはいいかもしれない。
 そこから見る薩摩富士(開聞岳)は絵になるような景色だった。

 フェリーに乗って薩摩半島を離れ大隈半島の根占へ。そこから40km程南下 すると日本本土最南端「佐多岬」に到着する。
 この辺りは、やしの木にパイナップルと南国ムードが抜群だ!佐多岬の駐 車場にバイクを止めると、隣に大荷物を背負ったオフ車に乗ったライダーが やってきた。
 オフ車の彼とはすぐに仲良くなり、往復1時間程かけて岬を一緒に歩いた。 佐多岬を出てからもしばらく一緒に走り、夜キャンプ場で会う事を約束して 別れた。

 桜島や都城に寄ってからキャンプ場に行ったが、着いた頃には既に空は 真っ暗になっていた。オフ車の彼は待ち構えていたかのようにやってきて、 彼の隣にテントを張った。
 疲れきって買出しも何もしていない私を見て、彼はカップ麺をくれた。
 普段はほとんど食べない非常食のような存在のカップ麺。でもこんな時に もらって食べるカップ麺は本当にうまい。今でも私にとって忘れられない味 である。

 そして彼は「霧島」という一升瓶の地酒を出して2人で酒盛りが始まった。
 それにしてもバイクに一升瓶や大量のカップ麺を積んでくるとはビックリ。 彼はツアモノだ!

 7月16日、今日もビックリな朝を迎えた。何とこのキャンプ場でバイ クの盗難事件が起こった。
 京都から来たライダーのバイクが盗まれていた。そして大阪のバイクも 鍵穴が壊され、私のバイクもイグニッション前の配線が切られている。あと のオフ車2台は無事だ。

 旅に出てこんな事件に巻き込まれるとは、やるせない気分だ。地元の警 察官がやってきて事情等を聞かされた。
 どうやら地元の小僧共が早朝に持っていったようだ。

 結局京都から来て盗まれたライダーは地元の人の車で宮崎空港まで送っ てもらい帰るハメに。
 丁度オフに乗ったライダーの1人がバイク屋の人で、私のバイクの配線を 接続してもらい無事に走れるようになった。

 キャンプ場を出て1時間半位で宮崎市の友人宅に到着。5日ぶりに再会 した。
 夜は大酒のみの友人親子と外でバーベキュー。宮崎牛やうなぎを死ぬほど 食べて、地酒「霧島」が今夜も登場。ベロンベロンに酔って事件のショック はフッ飛んだ。

◆和尚さん喝!
桜島近くの海岸にて。幼児虐待じゃないよ!  7月17日、朝お世話になった宮崎の友人宅を出発。R10を北上し延 岡を経由して高千穂へ。
 高千穂渓谷は綺麗な水と深い渓谷で、ボートに乗っている観光客がたくさ んいた。カップルならいいデートスポットになりそうだ。

 高千穂から西に向かい、阿蘇の南側のキャンプ場に到着。そしてキャンプ 場に着いた途端、何千もの虫の大群が襲ってきた。
 この日のキャンプは本当に虫に泣かされた。蚊取線香を買ってテントの 周りで火を焚き、必死に応戦した。

 7月18日、阿蘇で1週間ぶりに佐賀の友人と合流。2人で最近無料に なった「やまなみハイウェイ」を走る。本当に気持ちのいい高原道路だ。
 途中「筋温泉」という力が湧いてきそうな温泉が目に留まったので寄って みる。

 温泉に入る前、私はビッグな用を済ませたが焦った。水が流れないので ある。今年は猛暑の為に水不足のようだ!
 仕方なく水が溜まるのを待って、先に温泉に入った。誰もいない温泉に 友人と2人で浸かっていると、頭が坊主の男性が1人で入ってきた。その 男性は何やら私達2人の方をにらんでいるような目付きだった。

 温泉をあがり脱衣所に行くと和尚さんの衣服が置いてあった。やはりあ の坊主の男性は和尚さんなんだと納得した。
 そして、そろそろトイレの水が溜まる頃かな?と思いトイレに入ると水 が既に流されている。
 ア然とした・・・。何と、和尚さんに自分の用を流させてしまったのだ!
後ろめたさを感じた私は、すぐさま友人を引っ張りスッ飛んで筋温泉を後に した(喝!)。

 その後、残りのやまなみハイウェイを走り、別府を経由して大分港へ。 ここで友人とお別れをして、神戸行きのフェリーに乗り九州を去った。

◆九州を後に
 7月19日、朝フェリーが神戸港に到着。フェリーで知り合った大阪 のライダーと朝食を食べてから別れる。
 大阪近辺の国道の写真を撮ってから夕方ビジネスホテルにチェックイン。 夜は大阪にいる友人と数年ぶりに再会した。

 7月20日、大阪を北上して舞鶴を経由し、宮津の「天橋立」へ。
 ここでは海水浴客がたくさんいて、私も迷わず海に飛び込んでしまった。

 宮津からひたすら東に走り福井にある友人宅へ。ここではやってしま った「立ちゴケの巻」で、友人宅の近所の人々に見守られながら、恥ず かしながらもハデにコケてしまった。

 福井では2泊した。間の日にはバイクに乗らず、車を借りて金沢の 「兼六園」に行った。庭園には興味はないが、日本三庭園の1つで、広 い公園に行った感じでのんびりと過ごせた。
 旅の途中で、たまにはバイクを乗らない日があってもいいかもしれない。

 7月22日、福井を後に、北陸道で新潟を経由して関越道で東京の自 宅に無事帰宅。

 この旅は、1人で始めてのロングツーリングだったので、初めての体 験や驚きの事件に巻き込まれたり、人々の温かい心使いが身に染みたツ ーリングだった。
 1ヶ月後、九州の警察から連絡が入り盗まれた京都のバイクが見つか ったようで少しホッとした。

   
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