間一髪セーフ！夜行列車での命がけの泥棒少年

　ガヤ駅のプラットフォームでは、予定よりも２時間程遅れて、カルカッタ行きの夜行列車が到着した。インドでは、この程度の１・２時間の電車の遅れは当り前である。これから一晩のガヤ→カルカッタ(約500km)の約１０時間の列車の旅が始まるのである。

　私と連れの日本人ツーリスト「しげる君」は、指定席のチケットを持っていなかった。インド人も無賃乗車してる人ががかなりいるみたいだった。
　自由席があるかというと、自由席＝３等シート。インド名物の３等シートは、とっくに埋まり超満員。一応３等車両を除いてみたが、シートはもちろんで立っている場所さえキープするのに大変な状態。インド人同士が戦争とも思える場所取り合戦を繰り広げている。

　まさか通勤列車のような混雑の中、一晩中電車に乗るのは辛い。そこで２等寝台の車両に移り何両か見てまわり、どうにか床に腰を下ろす場所を見つけた。
　床といってもインドの列車の床はかなり汚い。人や牛の糞を踏んでも何とも思わないようなインド人がたくさん歩いている床である。

　今の私達には背に腹を変えられない状態だったが、もう汚い床を見ても何とも思わなくなっていた。しげる君は既に人が寝ている寝台シート下の荷物置き場の床に寝そべり、私はドア近くの合間にしゃがみ込んだ。もう２人ともグッタリ！疲れきっていた。
　こうして様々な人々を乗せた夜行列車は、一路カルカッタを目指しガヤ駅を出発した。

　ガヤ駅を出発して２・３時間過ぎた頃だろうか？警備の為に乗っている、背中にライフル銃を背負った警察官が私のところにやって来て「お前寝るための席が欲しいか？１００ルピー(\250)で席を確保してやるぞ」と言ってきた。

　既にインド物価に染まっている私にとってはもの凄い高値。１００ルピーもあれば、宿が泊まれる値段だ！
　よく眠れない事もあって、１００ルピーを払って寝ようかと思ったが高すぎる。「席はいらない」と断ると今度は「じゃあ５０ルピーでどうだ！」と言ってきたが結局断った。

　それからしばらくして、先ほどの警察官がやってきて「お前にこの席をやる！」と言って今度は無料で席を貰い、警察官は次の駅で降りて行った。
　あの警察官はもうすぐ電車を降りる為に、初めから自分の席を譲って金儲けをしようとしてたのだ！まったく油断も隙もあったもんじゃねぇ！
　しかし、これでシートを確保する事が出来たので寝床につける。そしてシート下の荷物置き場に私のバッグとしげる君のバッグを鎖で繋げて置いた。「これで安心して寝れる」と思いやっと眠りについた。

　眠りについて数時間過ぎた深夜、「ガサッ！」という音で目が醒めた。すぐ近くの列車のドア付近に７・８歳くらいの少年がいた。その少年は上下が破れているボロボロのコ汚い服を着ていた。シート下に置いていた私としげる君のバッグを引っ張り出そうとしてるのだ！

　少年は、コンパクトなしげる君のバッグの方を盗もうとしていたが、そのしげる君のバッグと私のバッグが鎖で繋がっていた為に重くて引きずり出せない。どうにかこうにか少し動いたが、その少年には鎖で繋がった２つのバッグパックは重すぎたようだ。それでも強引に引っ張ろうとしたが、ドア近くにいたその少年は手が滑ってそのまま列車のドアから外に転落した。まさに一瞬の出来事だった。

　少年は、初めから私達ツーリストのバッグを盗み、そのまま列車から飛び降りようとしていたのだ、列車は時速80〜100km/hで走っている。列車から落ちれば命だって危ないかもしれない。そう貧乏なインド人にとって、何が入っているか分らない一ツーリストのバッグでさえも喉から手が出るほど欲しいのだ。

　私は、命を張ってまでもバッグを奪おうとしたあの少年を見て、インドの恐ろしさを初めて感じだ。
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