しかし停めたタクシーは、皆「50ルピーだ！」とか「20ルピーじゃ乗せられない」と言って走り去っていく。 どうにもこうにもインドやネパールと勝手が違うようだし、ガイドブックも５年前(新しい本が出ていない) のだから物価も変わっているような感じで、なかなかタクシーが捕まらなかった。
そんな中、しばらく待つと１台のタクシーが私達の前に停まった。 そして、リアカット・チョークまで行くことを伝えて、値段交渉が始まった。
私 「リアカット・チョークまでいくら？」
運転手 「いくらでもいいよ。君が値段を決めればいいさ。」
といわれてあっ気ににとられてしまった。タクシーでこんな事を言われたのは初めてだ。
私 「えっ？じゃあ２０ルピーでもＯＫか？」
運転手 「２０ルピーでも３０でも５０でもＯＫだよ。さぁ君はスペシャルゲルトだから乗っておくれ」
と言われてしまった。君が値段を決めてくれと言われても、相場より安い２０ルピーで本当にいいのだろうか？ 運転手の彼もタクシーで商売をしている以上、客からより多くのお金をもらいたいと思ってるはず・・・。
以前インドを旅したときに、タクシーなどの値段交渉を曖昧にしたがために後からトラブルになったことは 何回もあった。今回も後で高額な金額を要求されるかもしれない。そんな心配をしながらも運転手の押しに負けて タクシーに乗ってしまった。
タクシーが走り出すと上機嫌な運転手は私にどんどん話しかけてくる。
運転手 「どこから来たのか？」
私 「日本からです」
運転手 「日本は素晴らしい国だ！ようこそパキスタンへ。君達はパキスタンの大切なスペシャルゲストだよ！」
運転手 「僕は最高にハッピーだよ！ハッハッハ♪♪♪」
その後も陽気な口調で、君は日本のどこに住んでいるのか？何の仕事をやっているのか？お父さんはいるのか？ など色々と質問攻めにあった。
運転手 「そうだ、今日は暑いし一緒にペプシを飲まないか。」
とお誘いを受けたところで、ちょうどタクシーは目的地のリアカット・チョークに到着した。 そして、私は運転手に２０ルピーを払おうとするが、お金を受け取ってくれなかった。
運転手 「君は大切なスペシャルゲストだからお金は要らない。それより一緒にペプシを飲もう。 ペプシをご馳走してくれたらタクシー代は要らない！ハッハッハ♪♪♪」
と陽気に誘われたのだが、パキスタンに来て２日目。まだ国の勝手も分からないし、パキスタンという国をかなり 警戒していたので、ペプシの誘いは断りタクシー代２０ルピーを払おうとした。
運転手 「そうかペプシ飲まないかぁ・・・残念だなぁ・・・・・・。それじゃ」
と言ってお金を受け取らずに走り去ってしまった。
結局タクシーをタダ乗りしてしまった。 運転手も外国人が客ならお金が稼げると思うのが普通なのだが、いったいどういうことなんだろう？ 疑問だけが残ってしまった？？？
その後の旅で、色々なパキスタン人のやさしさにふれる事になるが、彼らに共通していることは、 外国人に対して好奇心を持っていること。そう、あのタクシー運転手も商売よりも、 ただ外国人が珍しくて好奇心を持って話をしたかったのだ。そう思うことにした。
パキスタンには『トヨタ』や『日産』の自動車、『ソニー』や『ＮＥＣ』の電化製品など高性能な日本製品が 多く出回っている。そんな日用的に使用している日本の人ってどんな人なんだろうか？タクシードライバーは、 そんな興味が湧いたのではないだろうか。
結局、あのタクシー運転手の正体が分からないまま不思議なひと時を過ごしてしまった。
私達は、その後あのタクシー運転手を『ペプシおじさん』と呼ぶことにした。